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「写真というものですか…」
 彼女はいかにも興味があるかのような声色で、そう呟いた。
「私の大事な研究道具でもあるので、よかったら見せてあげましょう」
「本当ですか。ありがとうございます。私、すっごくうれしいです」
 そういう彼女の横顔を見るのが私はうれしかった。そこで、足早に今日私が泊まる部屋まで彼女に連れて行かれる羽目になった。

「これがそれです」
 私は持ってきた機材の中から一枚の写真を取り出して、彼女に渡した。
「どういう風に見るのですか?」
「これは…。ここに三つの星が見えるだろう」
「ええ」
「これは冬の有名な星座、オリオンの三ツ星だよ。ちょうど、これは冬の大三角形を撮ったものだね」
 そういうと、彼女は両の手でじっと見つめた。その間に私は写真を撮る道具を取り出しにかかった。こういう物珍しいものを撮って渡してあげると、彼女も素直に喜ぶのではないかと考えたからだ。てきぱきと、写真を撮れる準備を進めている間も、彼女はずっと写真を見ていた。
「写真。撮ってみますか?」
 私は彼女に声をかけた。
「素晴らしいものです。こうやって、記憶を大事に保存できるようになるのですね」
 そういって、彼女はずっと眺めていた写真を私の方へ渡した。私はそれを受け取りながら言った。
「そちらの椅子に腰掛けてください。この写影機は、すぐさま写真をとれますから」
 そういうと、彼女は優雅に椅子に腰掛けた。その立ち振る舞いは、さすがは良家のお嬢様という感じであった。
「それじゃあ、撮ります。いい顔でお願いします」
 私は彼女にうまくピントを当ててシャッターを切った。
「出来上がるまでちょっと、待っていてください。」
 そういって、私は現像するべく準備を始めた。
「それじゃあ、できたら見せてくださいね」
 彼女は私の部屋から出て行った。すごくいい花の香りが残っている。
 
 数時間後、私は写真をみて愕然とした。彼女が、写真に写っていなかったのである。これはどういうことなのだろうか…
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「ラッセル様?」
 じっと彼女の顔を眺めていたら、彼女の方から声をかけられた。私は頭を振って、なんでもないことを彼女にしめした。
 植物園は生命が確かに息づいてはいた。しかし、私は奇妙な感覚に囚われていた。それは、生命ではない何かかここにはいるような感覚だった。その感覚をひしひしと身体で感じながら、先に行く彼女の後を追った。
「お父様は、植物の種子は世界中を旅行した先で貰ってきてはくれるけども、あんまり興味はないのですの。そのかわり、その地域に伝わる伝承や、唄といったものはかなり蒐集するみたいですの。ラッセル様は興味がありますか?」
「私は星をやる人間ではありますが、星座の物語にすごく興味があるわけではありません。本はそれなりに嗜みますけども、やはり面白いのは科学です。最近の物理学は進歩が早いですから」
「そうなのですか。家庭教師にいろいろと教えてもらいましたが、それでも閉ざされたところですから、なかなかと世の中のことは届いてきません。できればいろいろと教えてくださいませんか」
 微笑を浮かべながら私に話しかけてくれる彼女の表情に、顔を赤くしながらええかまいませんと答える自分がみっともないとは思った。これまでの人生で、こういう女性からいろいろと話しかけられた経験がないことを羞じた。しかし、そういう感情を差し引いても、彼女ともっと話したいという欲求は沸き上がっていた。
「いまは、電灯というものが大都市では作られているのです。夜でも明るいのですよ」
「それはどういったものなのですか?」
「電気というものを使って、フィラメントという構造のところに負荷をかけて光を発生させるものです」
「そういうところでは星空は見えにくいのではないのですか?」
「ええ、そうです。だから、私たちも電灯がないとところで星を観測しているのです」
「星はこういったもので観測するのですよね?」
 そういって、彼女は身振り手振りで表現しようとする。その様ですら愛くるしい。ラッセルは胸にある種心地よい感情をもちならがら答えた。
「望遠鏡というものです。それで、遠くにある星を見るのです。また、最近では銀をつかった写影機で星の画像を取るのです」
「ラッセル様は、何をしていらっしゃるの?」
 彼女は後ろを振り向きながら言った。
「私は、大学で働いています。そうですね、星を眺めているというと分かりやすいかもしれません」
 私が答えると、彼女は目を細めて言った。
「星を眺めるってロマンチックなお仕事ですね」
「まあ、そういう風に思われるかもしれません。ただ、毎晩夜に行うので結構大変ですね」
「そうなのですか。私はそれは大変だとは思わないのですが」
 そういう彼女の目は、さも当然だという目をしていた。しかし、こういう話をしてきた私からするとそれは違和感を覚えた。毎日、夜遅くまで起きることは普通ではない。観測以外は普通の人と同じ時間の生活をするが、観測の時はそれが逆転するのだ。事実、そういうことを従事している人は1日や2日は我慢できるが、3日になると体調を崩すものがいる。だが、大変だとは思わないと言ったのだ。しかし、疑問に思ったのもここまでであった。彼女が着いたと言ったからだ。
「ここは、私のお気に入りなんです」
 そこは植物園だった。さまざまな色のバラが咲いており、少し甘い匂いを漂わせていた。
「これはラ・フランスよ。ねえ、いいかおりでしょ」
「ああ。ものすごく甘い香りだ」
「ここはね、お父様がいろんなバラを買ってきてくれるからさまざまな品種があるの。一番のお気に入りよ」
 そういう彼女の顔は無邪気そのものだった。
「どうだね、中東の方での成果は?」
「それほど芳しいものではありませんでした。デマの方がよかったですよ」
「そうか。ならば例のやつは回収できなかったみたいだね」
 2人が私を無視して話し始めた。いや、無視ではなく友人もさっきまでは紹介する気ではいたと思うのだが、元来研究のことになると食すらも忘れて夢中にやりはじめる。その悪い癖が出てしまったのだろう。おそらくアルバートといった子爵もまた友人とおなじような人なのだろう。手持ちぶたさな私は2人が話し込んでいるのを横目に部屋の中を見渡し始めた。床にはペルシャで作られたであろう絨毯が敷きつめられ、丁寧に扱っていることが分かるくらいに塵、埃がなかった。天井は絢爛なシャンデリアがぶさ下がっており、まだ昼ということもあってその明かりのすごさは窺いしれないが、思わず見蕩れるほど美しい意匠だった。
 あまりにも2人は私を無視して話をするので、この部屋の中を見て回ることにした。2人の間に割って入るという無粋なことをしたくなかったが、それ以上に待たされるというのが苦痛であるほど興味深いものが部屋にあったからだ。棚にはいろいろな小瓶が並べられていた。赤い砂、白い砂、あらゆる砂が詰められていた。そおっと触ろうとしたとき横から声がした。
「いけませんよ」
 横見ると金髪が美しい女の子が立っていた。いつの間にと思ったが、まずは注意された手を戻し挨拶をするのが礼儀だと思い、少女の方へ身体を向けた。
「すいません」
「いいえ。本来ならあそこにいるお父様が注意すべきことなのですが。それより、あなた様がラッセルさんかしら」
「はい。そうです。初めまして」
「こちらこそ初めまして。アルバート子爵の娘であります、ルナ・アルバート・ネージュと申します」
「丁寧にありがとうございます。私はヘンリー・ノーマン・ラッセルと言います」
 そういって私はお辞儀した。ルナはくすっと微笑んで言った。ルナは、金髪で体型はすらっとしているが、身長はそれほど高くなかった。せいぜい150cm前後だろう。整った鼻立ちに、きりっとした目元。少しピンクがかった頬で、顔だけを見ると20代を超えているような完成された美しさだった。しかし、赤を基調としたドレスを纏い、ところどころにまるで雪景色のように白い肌が見えるその姿はとても18歳には見えなかった。
「お父様はコールダー様とずっとお話をしているみたいなのであちらでお話ししません。私、少し退屈していたので」
「ええ。喜んで」
 少しどぎまぎした私はすんなりとその申し出を受け入れた。我ながら現金なものだなと思いながら彼女の後を追った。
「やあ、リズベット」
 友人は軽く手を挙げながら応えた。私はぺこりとお辞儀をした。何より私はウブで、女性に話しかけられるということだけであがってしまう性質だったからだ。
「お嬢様から、お二人を部屋に案内した後に旦那様のところへ連れて行ってというお達しがあったのですが」
「ああ、わかった。じゃあ、とっとと部屋に荷物を置いて来よう。案内しておくれ」
 友人がそういうと、リズベットは体を翻し2人の前に立って、こちらですといいながら2階の客間へ案内してくれた。途中、窓から見える庭の全貌に私はびっくりしたが、友人は笑って夜になればもっと面白くなるよといって先に歩いて行ってしまった。

「こちらです」
 リズベットに通された部屋は青いバラをかたどった絨毯が敷き詰められており、2人で泊まるには十分な広さがあった。
「すごいね。自分のねぐらの汚さに辟易するぐらいだ」
「だろ。でも、お前の家が汚いというならば、俺の住む家は人が住めるようなところじゃなくなるぜ」
 2人でそう笑いながら、持ってきた荷物を適当なところに置いておいた。一応大事なものをトランクから取り出し、先に部屋から出た友人を追って、私も部屋の外に出た。ここまで案内してくれたリズベットさんはちゃんと待っていてくれてこういった。
「それでは、旦那様のところまで案内させていただきます」
「ああ、よろしく頼むよ」

2階から下りて、大きな広間を通り抜けた先にこの邸の主がいた。ここに通されるまで、まるでおのぼりさんのように興奮してた私を嗜めていた友人も流石に、この先に子爵がいるということで緊張しているのが伝わった。しかしながら、私は友人だといっていたのにどうして緊張しているのかはわからなかった。後にその理由がわかるのだが、まだそれについて書くべきではないので話を先に進めよう。
「旦那様、お二人が到着しました」
「おお。入りたまえ」
「失礼します」
 友人がそういいながらドアに手をかけて入った、私もそれに続いて中に入った。そこはまるで教会のように静かで、空気が痛かった。
「こんにちは」
 深く重みのある声がする方をみると、まだ40代ぐらいの若い男性が立っていた。きりりとした眉に、こざっぱりした服。そして、蓄えられた髭。どれを取ってもかなり若々しい印象を与える。
「ああ、こんにちはだ、アルバート」
 友人はそういって彼の元へ歩いていった。私はそれにならい、後ろについていった。視界の端に、何やら金色のものを見たような気がした。
子爵の邸宅の庭は手入れが行き届いていた。私は不勉強だったせいか、花の名前やらはまったくわからなかった。日本の盆栽が好きであるらしく、庭師の人間が丁寧に説明してくれたがただ相づちを打つしかできなかった。庭師の方も、長話を切上て仕事に戻った。私の顔につまらないという意味を見出したのだろうか。それはよくわからないが、私はなんともいえない気持ちに囚われた。友人は興味がありながらも、あまりにものを知らない私に講釈をたれず、1人で子爵の家に行っていた。
「どうだい。この庭は」
「僕が不勉強すぎるけど、それでもこの庭は綺麗だね」
「貴族だからこそ、こういうことをしておかないといわれるのさ。とはいえ、この家の子爵は、かなりこういうことが好きな人なのさ。だから、世間では疎まれるのかもしれないが」
「疎まれようが、好きなことができるならいいじゃないか」
 私は自分の思うままに返した。友人は苦虫をつぶした顔をしながら言った。
「平民ならできただろうが、こっちの世界のしがらみはそれこそ個人ではどうしようもない。まあ、貴族でない俺たちが子爵の心情を察しろというのも無理なはなしだがな」
 このときは知らなかったが、友人は使用人の子どもであったらしい。それゆえに、貴族でもなく、平民でもない自分の立場をときどき疎ましく思ったことがあったみたいだ。
 私はこれ以上こういう話をするのもよくないと思い、友人の背中を叩きながら言った。
「まあ、ともかく入ろう。荷物が重くてかなわないから」

 家の内部は豪華ではあった。しかしながら、私がイメージしていた豪華絢爛なものではなく、質素ながらも優美な雰囲気を持っているものだった。白磁の花瓶には何も飾られていなかったが、どこかしら厳かな感じを携えていた。
「コールダー様とラッセル様ですか」
 高いアルトの声が聞こえた方向を見ると、そこには見るからにここのメイドをやっている人が下りてきた。
 長い長い山道を抜け、木漏れ日が射すひらけたところに出た。目の前には頑丈な鉄格子と3mはあろうかという壁が反り立っていた。
「ここが、子爵のお屋敷さ。さぁ、どこに車を入れたらいいのかな」
 友人はそういって運転席の扉を開け、地面に降り立つと鉄格子によっていって到着を伝えることができるものがないか探していた。このころは今のようにインターフォンというものがなかった。だから誰か門番がいないかを探すのが普通だった。こちらから友人が何かに向かって話しているのは見えたが、いったい誰と話していたのかは分からなかった。大人しく私は車からその邸宅を観察した。事前に友人から結構古いという話を聞いていたが、思ったより3mある壁は朽ちていなかった。ちゃんと手入れは行き届いているようである。ほんの少しだけ邸宅の屋根が見えたが、それだけではよくわからなかった。
 ぼうっとしているといつの間にか友人は車の扉を開けて運転席に乗り込んでいた。
「あそこに見える角を曲がると、駐車場があるってよ。すでに何人かが車で到着しているらしい」
 そういってアクセルを踏んで車を急発進させた。それによって私は上半身をソファに深く沈める結果となったが気にしない。
「だれと話していたのだい」
「ああ。守衛さんだ。あの鉄格子に取っ手があって、そこを引っ張ると守衛室の呼び鈴が鳴る仕組みになっている」
「そうなんだ」
 角を曲がるとそこには車が数十台止めることができそうな大きな駐車場があった。たしかに、何台か車が止まっていた。意外とセレブリティな車が止まっているものと想像したが、それほどでもなかった。日本製であったり、アメリカ製のものであると友人は言うのだがよくわからなかった。しかし、車は知らない私でもよくわかるくらいすすけていた。
 友人は車を適当なところに止めた。友人が車から下りるので、それにならって外に立った。まだ日の光が強く、すこし目眩がしたが、ひんやりとした山特有の風を受けると、心地よくて思わず目を閉じた。湿気に混じって、ほんのすこし土の匂いがした。車の後ろに行き、友人がトランクを空けると、私は自分の荷物と、機材の一部を持った。
「それじゃあ、行こうか」
 友人は、大きなカメラを首に下げ、左で持ってきた荷物をもって先程の入り口の方まで歩き出した。一緒についていく私は急に何かが叫ぶような声が聞こえた。気になった辺りを見渡してみても何もなかった。気になるものの、先を行く友人が不思議そうな顔をしているのでなんでもないと言って再び歩き出した。
 その日は子爵の誕生日らしい。子爵とゆかりのあるものが集まってパーティを催すらしい。その誕生日パーティに友人は誘われていて、そこでおもしろい怪奇話を蒐集するつもりだったらしい。(まあ、おもしろいだけならまだしもこのあとに身の毛もよだつ目に遭うのだから)彼がどこからその怪奇話を知ったのかは知らなかったが、私自身は初めて貴族のパーティにいくということで少し浮かれていた。まあ、誰だってそうだろう。大金持ちとはいかないまでも、子爵は立派なお屋敷をもっており、家政婦さんが何人もつめているのだから。庶民の私からはどういうものなのかは想像もつかない。好奇心に突き動かされるまま、彼の求めに応じたのだ。
 私は車の免許を持っていなかったので、友人の車に乗せてもらった。友人はどこへいってもすぐさま調査することができるように、大型の車に調査するための道具を後ろに詰め込んでいた。なにやら怪しげな機材や、高価なカメラ。果てには、調査で入手してきたと言っていた霊験あるおまもり等を一式詰め込んでいた。私は彼の後ろに座っていたが、そういったものがたくさんあったせいでトランクごと縮こまっていなければならなかった。山道を走っている中、私は窮屈な思いをしながら、はやくはやく子爵の邸宅につかないか待ちわびたものだった。
 山道は思った以上に暗かった。針葉樹が生い茂っているのではなく、大きな広葉樹が山に所狭しとあり、不気味なくらい日の光を遮った。それでも、空気はものすごく澄んでいたので気持ちはよかった。ただ、車の中に入るとときどき奇妙な視線を感じることがあった。そのときは思い過ごしだと考えたのだ。しかし、人間の直観は頼りになることを私は失念していた。研究をしているとき、理由がないけどこういうことをすればうまくいくといった直観をかなり当てにしていたくせに、こういうときだけ当てにならないと思った過去の私が恨めしい。
 そのはじめ、天地が混沌の状態にあったとき、すべてのものがまじりあっているなかに変化が生じ、そこに気が生まれた。その気が変化して形を構成し、その形が変化して生となったのである。ところがいま、もう一度変化をくりかえして、形のある生から形のない気へ、気からまだ気のなかった状態、つまり死にかえっていったのだ。これは春夏秋冬の四季の循環をくりかえすのとまったく同じではないか。
*荘子 至楽編 より荘子の死生観

 死とは生き物の前に立ちはだかる命題、壁ともいうべき存在である。果たしてその言葉が的を射ているのかどうか、私には分からない。数十年前の事件から、未だにその意見を鵜呑みにできずにいるのだが…
 ここに書き記すのは懺悔なのかもしれない。贖罪の現れなのかもしれない。もしかしたら、墓場までに持って行くのが怖くなったのかもしれない。断定は不可能だ。この『私』という存在は曖昧で、いまこうして書いてる内容すらも蜃気楼のように立ち消えるかもしれない。人間は自己の存在を連続によって認識している。この連続が途絶えた時が『死』である。また、生とはこの連続性の始まりにしか過ぎない。永遠を追い求める輩は、単純にこの連続性の追求と捉えることができるかもしれない。しかし、これ以上意味のない思考は避けるべきだ。
 話を戻そう。数十年前の事件のことだ。あれは世の中には記録として残っていないだろう。あれをわざわざ知りたい人間は、物好きの範疇を超えている。そういう類いの話だ。眉唾もののこと。きっと、宇宙人を本気で信じているなら知りたいと思うようなことだろう。あれはそういう存在だった。そう、『切り裂きニック』は亡霊である。


 私はあくまでも天文学者の端くれであった。いまでもそのつもりだ。そんな私がとある子爵の邸宅に呼ばれたのは不思議でならない。しかし、これは当然のことでもあったのかもしれない。私の友人の1人にオカルトを真剣に研究している輩がいたからだ。そいつはもうすでにこの世にはいないが、彼のしたことは、常人から見ると気が狂ったと思われても仕方がないことだった。私も彼の研究には興味がなかったが、彼の人柄はとてもよく、研究とは離れたところでは仲良くしていた。だから、彼がその子爵の家に呼ばれたとき、私もついでに呼んでみよう気になったのだろう。
 その子爵の邸宅は山の奥地にあった。本家はちゃんと国の中心にあるが、その子爵自身が人嫌いなためほとんどをそちらの邸宅で過ごしていた。子爵の家には子供はいなかった。奥さんも昔に亡くしたらしい。大勢のハウスキーパーさんがその邸宅に詰めており、ほとんど不自由ない生活を送っていた。その子爵の家には、何やら先祖からずっと隠されてきたものがあるらしい。それはとびきりの怪しげな逸話のあるものを…
 そのことを怪奇収集を専ら専門にしていた彼が無視するはずがなかった。そして子爵と仲良くなり、いざ調べようというときに、人手がいると思ったのだろう。しかし、彼の弟子達は先生のために別のところで怪奇現象話の収集にとりくんでおり、人手が不足していた。ゆえに、彼の友人のなかでもっとも都合のつきやすい私が誘われたのだろう。現に私はそのころ、あらかた研究データをまとめたところで、時間に余裕があった。また、ほとんど彼の研究には興味はなかったが、彼がどのように研究を行っているのかということには興味があったので、ついていってやろうと考えたのだ。




 
プロフィール

水妖の音楽

Author:水妖の音楽
京都大好き大学生。
2009年 天文学会参加
2013年 サマーチャレンジ  
2015年 夏の学校
現在天文学を勉強中の大学院生
主にあわぎゃらくしーをやっていますが、銀河とつけばなんでも面白がります。
思想の根本は荘子であるため誰かしらに与することはしません。
身体論、哲学の類いの話も好きです。
趣味は読書とクラシックと絵画をみること山登り。
籘真千歳先生のファンです。
SFが特に好きです。森見登美彦さんも好きでサイン本を持つほど。ライトノベルは半分の月がのぼる空。ホラーなら玩具修理者。
クラシックはアリシア・デ・ラローチャやバーンスタイン、佐渡裕、カツァリス等が好み。
絵はマグリットやら、ルドン、川瀬巴水、ドミニク・アングル

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